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界面活性剤を加えると水の表面張力が小さくなるので、繊維の隙間や汚れと繊維のあいだに浸透でき、油性の汚れには親油基が結びついて繊維から引き離す。
かなり簡略化しすぎだが、これが洗濯の分子化学的現象だ。
界面活性剤は、すべての洗剤に含まれている。
石鹸の場合は、天然油脂からグリセリンを分離した脂肪酸を水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)で中和したものがそれ。
太平洋戦争直後の物質欠乏期に石鹸の代用品として使われたムクロジの果皮は、植物が生合成したサポニンという界面活性物質を含む。
石鹸と合成洗剤をくらべると、合成洗剤中のABSの生分解性、すなわち微生物による分解されやすさは、たしかに石鹸のそれよりも著しく劣っていた。
ABSの難分解性、つまり微生物の食欲をそそらない理由は、ごく単純なところにあった。
ベンゼン環(いわゆる亀の甲)につながる側鎖のアルキル基に分岐があって食べにくい(酸化しにくい)のである。
そこでこの分岐した枝を切り取って幹とまつすぐにつないで一本の鎖にすると、生分解性は格段に向上する。
これがLAS、すなわちリーア(直鎖)アルキルベンゼンスルホン酸突き止められた。
界面活性剤ABSによる下水畑里場の発泡。
日本では1960年代前半に社会問題化したが、その後、合成洗剤のソフト化により解決したナトリウムであり、60年代を通じて各国でABSからLASへの転換が図られた。
これを合成洗剤のソフト化と呼んでいる。
かくて、日本では1970年までに、イギリス、西ドイツ、アメリカに次いで世界で4番目にソフト化がほぼ完了、EC諸国やソ連も追随して70年代前半で合成洗剤の発泡問題は「問題」ではなくなったのである。
石鹸と合成洗剤では、どちらが環境負荷が大きいのか今日、洗濯用合成洗剤のほとんどに用いられているLAS、洗濯用のほか台所用やシャンプーにもよく使われるAES(ポリオキシエチレンアルキルエーテル塩)、AOS(αオレフィンスルホン酸塩)、AS(アルキル硫酸エステル塩)などの界面活性剤は、いずれもJIS法(界面活性を失った物質になる一次分解性をみるための試験方法)によって90パーセント以上の分解性を示す易分解性物質である。
しかし、それでもなお石鹸には及ばない、というのが合成洗剤追放派の論拠の一つになっている。
ここには3分の理があるかもしれない。
これまでの実験結果を統合すると、AS以外の合成界面活性剤の分解性は、石鹸より劣ると考えられるからだ。
もっとも、下水処理場の流入水と放流水を分析すると、どの界面活性剤も除去率90パーセント以上で実用上の問題はない。
ただ、炭酸ガスと水とその他の無機物に究極分解するのは、とく泡に続いて「問題」になったのが、合成洗剤に性能向上剤として加えられているリン酸塩が、に分子構造中にベンゼン環をもつLASでは速やかとはいえず、一週間で50パーセント程度だが、石鹸の上澄み液の分解速度は、これよりずっと速い。
これが3分の理の部分だ。
しかし、上澄み液と断わったところに残る7分の非理が隠されている。
というのは、石鹸の成分は水中のカルシウムやマグネシウムと結合して金属石鹸(石鹸カス)になる性質がある。
石鹸が硬水で洗浄力をなくすのはこのためだが、石鹸カスが汚水桝や管渠に沈着することは排水路でも下水処理場でも観察されており、河川に放流されると沈澱してヘドロになる。
金属石鹸が究極分解なするまでの追跡はなされておらず、LASより長期間を要する可能性もなくはない。
そのほか、水棲生物に対する影響は、実験的には石鹸のほうが小さいが、洗濯一回の排出量に対するBOD負荷量は、石鹸のほうが合成洗剤の7倍強、今日の主力であるコンパクト洗剤の一5.8倍となっている。
BOD(生物化学的酸素要求量)とは、水中の汚濁物質が微生物によって酸化分解されるのに必要な酸素量のことで、これが大きいほど水の汚濁はひどい。
石鹸と合成洗剤はトータルな環境負荷を考えると甲乙、じゃなかった丙乙つけがたいのである。
湖沼、内湾、内海といった閉鎖性水域の富栄養化を招き、赤潮の原因になるという指摘だった。
リン酸塩は主として硬水を軟化する目的で配合されていたもので、リンが窒素、カリウムとともに植物の主要な栄養素であることを考えると、有リン洗剤が批判の的になるのは当然の成り行きだったと言えよう。
実際には、水系へのリンの排出源は土壌中に自然に存在するものや肥料、尿尿、食物残渣など多様であり、赤潮の発生メカニズムとなると、いまだに解明されていない部分もある。
それでも、ともかくはっきりした排出源からはリンを除くべきだという声が高まり、業界では1975年からまず低リン化を図り、続いて無リン化を進め、90年には無リン化率がほぼ98パーセントに達した。
91年の時点で有リン洗剤が使われているのは、水の硬度がとくに高い沖縄の一部ぐらいである。
リン酸塩に代わって採用されたのはゼオライト(アルミノ珪酸ナトリウム)。
マイクロフィルターにも用いられる微細多孔質の物質で、これが水中のカルシウムなどを吸着する。
なお、滋賀県(琵琶湖)は80年、茨城県(霞ヶ浦)は82年に、有リン洗剤の販売・使用禁止を盛り込んだ富栄養化の防止に関する条例を施行した。
それでも、その後の水質浄化が遅々として進まない現実は、有リン洗剤由来のリン分は一〜二割程度で、合成洗剤の無リン化だけでは富栄養化は防止できないという観測が正しかったことを裏付けている。
しかし、無リン化によって合成洗剤が富栄養化の共同正犯の位置から降りたのは確かであり、これで「問題」は一件落着、のはずであった。
事実、日本以外の国では、どうすればもっとよくなるかという議論はあっても、合成洗剤を追放しようという運動はない。
唯一、お隣りの韓国でそういう動きが最近始まったらしいが、これは日本の運動が「輸出」されたせいだという。
では、なぜ日本だけで合成洗剤追放運動がしつこく持続しているかというと、日本では環境問題と並行して合成洗剤の安全性の「問題」が何度も繰り返し提起され、いまなお有害説が一部で再生産されているからだ。
合成洗剤は毒だ、人体に対して有害だという説が社会問題化したのは1962年のことである。
Y氏が「石油系合成洗剤はけっして無害討ではないので、使用には充分に注意すべきである」とマスコミに発表、続いてY氏とともに学者グループの会合で「溶血性があり体内の酵素作用を阻害する」と並ぶ質問や参考人からの意見聴取が行なわれ、「合成洗剤の科学的調査に関する決議」に基づいて厚生省などによる調査研究が始まる。
その結果は同年のうちにまとまり「洗浄の目的からはなはだしく逸脱しないかぎり人の健康を害うおそれはない」と答申されたが、両Y氏とその信奉者を納得させるには充分でなかったようだ。
サリドマイドの薬害など、危険な合成化学物質に対する恐怖が広がった時代だから、これはむしろ当然だったかもしれない。
69年から74年にかけてのスターは、M氏である。
M氏は、LASを含む合成洗剤には催奇形性があるという学会発表をやつぎばやに行ない、なかでも皮層塗布によって奇形を誘発するという説は騒ぎを巻き起こした。
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